2020年01月13日

「夏の闇」西ドイツの女性について

開高健先生の名著「夏の闇」である。主人公のジャーナリストが、ヨーロッパのとある国の首都の大学で研究員をしている旧知の女を訪ね、女の部屋に入りびたる話である。夏の休暇中、気のおもむくままセックスと食欲にふけるのである。開高先生、これでもかと圧倒的な筆力で赤裸々である。女に裸エプロンでピザを作らせちゃったりするのである。女は博士論文を仕上げたところで、秋になったら論文審査会がありディフェンスをせないかん、という設定である。時代は1960年代、ベトナム戦争のさなかである。
開高先生、こんな作品を発表した後、開高家はどんな修羅場になったんやろうか、と心配になるのである。
なぜなら、このお話は全くのフィクションではなく、女性にはモデルとなった人物がいたらしいからである。便利な時代で、キーワードに開高、夏の闇と入れてケンサクするとどっさり出てくる情報。「さよならヤポンカ」なる書物の著者である女性がその方と考えられているらしい。
画像も見つかった。ヨーロッパの街角で撮影された異国の青年に囲まれた日本女性。1960年代らしくネクタイを着けてキチンとした身なりの青年たち。
前述の情報源によると1970年にこの女性は事故死されたとか。
さて、「夏の闇」では、この女性は首都の大学の東洋史研究所の客員研究員という設定である。もろもろの記述からこの国は西ドイツとしか考えられぬ。だって教授がシュタインコップなんちゅう開高先生が作り出したとしか思えんドイツ人名なんだから。となれば当時の首都はボンである。ボン大学だな、となる。かぶと犬も、ウン十年前にドイツ統合前のボンを訪ねた日を思い出す。首都とは思えん静かな、ほとんど人通りのない眠ったような街じゃった。確かケネディ橋とかいうながーい橋を渡ったなア。
小説中では女性がいったい何を研究しているのかは全く記述されない。そこでモデル女性の名前とボン大学を手掛かりに文献検索をやってみたらエライもんが見つかった。
Chiyoko Sasaki: Der Nomonhan Konflikt. Das fernöstl. Vorspiel zum Zweiten Weltkrieg. Universität Bonn, 1968. Phil. F., Diss. v. 6. November 1968.
これ、wikipedia先生のノモンハン事件のドイツ語ページで筆頭に挙げられている参考文献なんですが。
著者名がほとんど一致しているし、時期もピッタンコである。ボン大学の紀要でしょうか。50年以上前の論文ですが今でも引用されているようでなかなか大した仕事ではないでしょうか。かぶと犬はドイツ語は辞書が引ける程度ですが、いつか目を通してみたいなあ思う次第である。しかしこんなもん国内の大学に所蔵されているんやろか。  

Posted by kabuto1 at 17:47Comments(0)TrackBack(0)
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